寝る部

常識にとらわれない新しい〝快眠〟を日々探求しているブログ

ブログ連載小説『せんぱいせんぱいせんぱい乾杯、せんぱいサンライズ』(第5回)

京都のとある有名女子高に勤める男性教師に巻き起こるミステリー。

ミステリーに少しでもご興味があったら読んでみてください。


●第1章――日の出(第5回)


「……断っておきますが、あたしは八方丸く納めようとは一切考えておりません!」と母親は言った。「この子を陵辱したこの男が、これからものうのうと生活できることが問題だと言っているんです!あなたは、こんな男をのさばらせておいて平気だとおっしゃるんですか?!」
「いえ決して、そういうわけではありません!」と教頭は大声で言った。「勿論許され難いことであります。我々もわかっております。しかし、宗崎は不登校の生徒を助けたいと非常に熱心に働いていましたことを、少しは考えてあげることはできないかという点について、今日御母様と話し合おうとしているわけです!」
「阿っ呆な事を!」
「いえ!事実彼の手によって更正した生徒もいるんです!これはここだけの話ですが、そういう労働は一切給与には反映されることはないのです!完全なボランティアなんです!これはなかなかできることじゃないでしょう?!そういった彼の熱心な面を度外視し、たった一度の過ちだけで一刀両断に悪と決めつけてしまうことはないのではないかと、私は思うんですがどうでしょう!」


 母親は教頭から目を逸らし、ため息をつくと、「……そちらの御意見はもうわかりました」と膝に両手をつき、それから非常にゆっくり椅子から腰を離して立ち上がったのである。
「いや!御待ちください!」と教頭は慌てて言った。
「この男が熱心やということは、何もあたしにおっしゃる必要はありません。裁判所でおっしゃるべきです。『熱心ならば生徒を犯しても構わない』とどうぞ大声で叫ばれたらよろしいではありませんか」
「……………………」
「……どうかあと少しだけでも我々と話し合ってはいただけないでしょうか?」教頭は突然語気を落とし黙りこんだ母親をのぞきこんだ。「我々の意見、並びにあの男の意見を聞いてはいただけないでしょうか……?それが、私の言う『全員の利益』ということなのです」


 教頭は親子に深々と頭を下げた。それと同時に、私も含め周りの全教員が一斉に起立し、頭を机に打つほど深々と下げたのである。
 そんな教頭と全教員をひとしきりにらみつけた母親はひとつ大きなため息をつき、不服そうな表情こそ崩してはいないが席に戻ってくれたので、教頭は大いにホッとした様子で、笑みを浮かべながら再度親子に頭を下げた。
 ところが母親はそれを無視。すさんだ眼差しを正面に戻し、ひとつつばを飲み込んで、「優香さん、あれも言いなさい……」とポツリと少女に言ったのである。
「ママ……」
「やっぱりあのことも言わんと、この人達はわからんねん」
「でも……」
「この人達もちゃんと聞くから!」
 何事かを強いる母と拒否する娘のやりとりが続いていたが、どうやらまだ何か決定的真実があることは間違いないらしく、視聴覚室には緊張が高まった。誰かがつばを飲みこむ音が反響した。隣の吉田先生は椅子を座りなおし、私の心臓も早まった。宗崎は相変わらず下を向いて固まっていた。

(つづく)

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