寝る部

常識にとらわれない新しい〝快眠〟を日々探求しているブログ

連載小説『せんぱいせんぱいせんぱい乾杯、せんぱいサンライズ』(第6回)

京都のとある有名女子高に勤める男性教師に巻き起こるミステリー。

●第1章――日の出(第6回)

ある時、少女があきらめるように正面を向いた。怯えた目で教師達総勢56名を眺め、それから目をつぶり、口を開いて息を吸いこんだが声は出せなかった。それから何度か決意を新たにし口を開いてはやはり声を出せないでいたのだけれども、ようやく「……なにより一番嫌だったのは」と非常に小さな声で話しはじめたのである。

「宗崎先生があたしに、うんちしてほしいとお願いしたことです……それもトイレではなく、床の上でしてほしいって……。頭を下げて土下座して、あたしにお願いしてきたの……。優しく言っていたけど、断ったら突然怒りだしそうでした。だからあたしは……。だからあたしは………………」

 少女は突然顔をゆがめて母親の肩に頭をうずめた。母親はその哀れな少女を抱きしめそっといたわるように頭をなでた。少女がさめざめと咽ぶ声だけが視聴覚室に響き渡り、教員の誰もが信じられないように宗崎を見つめていたが、敗北を決定づけるこの新事実に教頭だけが大きく目を開いた絶望的な表情で部屋の何もない一点を見つめていた。

「必ずしもこの子に問題はないとは、言いきれません」と母親が少女の頭をなでてやりながら言った。「私もこんなことが起こるまでは宗崎という男の熱心さに敬服しておりました。しかし、宗崎がこの子に近づいたのは更正しようという熱意のためでも、恋愛感情のためでもないことが、これでおわかりになったでしょう。もしかすると、この男に同じ屈辱を舐めさせられた生徒がいたのかもしれません。よろしいですか?!宗崎は、更正に対して情熱があったわけではありません!学校の問題児を、何の反論もできない弱者と見做し、自分の狂気じみた性癖を満たす道具として扱っていただけなのです!」
「………………」
 やはり何も言い返せないでいる教頭から目を離した母親は、涙のように汗を額に光らせ、激しく息を切らしながら、全教員を眺め回したのである。
「他に、どなたか御意見のある方はいらっしゃいますか?」

 母親の意見はもっともであった。教師が生徒に人道にもとる陵辱を与えていたという事実に誰も何も言えるわけがなかった。今や教師達56名はいたたまれない、悲しげな表情を浮かべて肩をうなだれていることしかできなかったのであるものの、しかしながらその時、威勢よく立ち上がったのが母親の隣にいた学生服の男であった。
 その男は、被っていたパーカーのフードをはずしながら、少女を見下ろした。
《豚です!!》
と叫んだ。大きく甲高い声であった。人を冷やかしているような嬉しそうな表情を浮かべていた。

(つづく)

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