寝る部

常識にとらわれない新しい〝快眠〟を日々探求しているブログ

ブログ連載小説『せんぱいせんぱいせんぱい乾杯、せんぱいサンライズ』第8回

京都のとある有名女子高に勤める男性教師に巻き起こるミステリー。

 

●第8回

正面では、教頭が親子の前で床に跪いていた。しかもさらにその背後には、いつの間に立ち上がったのか、3年の学年主任と副主任も、将棋の駒のように同じ姿勢で床にべったりと額を押し付けていたのである。

 

「お母様のお怒りは重々承知しております!」教頭はその姿勢で床に叫んだ。
「今更頭下げたって無駄です!」
「どうか聞いてください!」教頭は慌てて身体を起こし、財布を取り出し、恐らく子供の写真と思われるものを母親に見せつけた。「私は教師だけでなく父親もしております!私にも奇蹟的に、優香さんと同じ年頃の子供がいるんです!私は来年からその子を大学に入れてやらなきゃいけないんです!」

 

母親はあご裏の肉をつまみながら冷たい目で教頭を一瞥しただけである。少女の背中に手を添え、その三人を通り過ぎた。よく見るとその先、部屋の入り口の前にも、2学年の主任と副主任がひれ伏して親子の行く手をふさいでいた。「いい加減にしてください」と母親はかなり強い語調で言った。ちなみに、後ろの入り口では、1学年の主任、副主任が同じように床で身体を丸めている。

 

「まだお母様をどうしてもお帰しする訳には参らないのです!」と母親の背後で教頭が立ち上がったが、今や彼の目の焦点は定まっているとは言い難かった。

 

「もう結論は出たでしょう!これ以上一体何を話すんですか?!」
「いいえ、お母さんは大きな誤解をなさっているんです!我々が宗崎を守るって、んな馬鹿おっしゃってはいけません!私はお母様よりも宗崎を憎んでおります!お母さまの3倍憎んでます!私はこんなスカトロ教師、苦しんで苦しんで苦しみ抜いて死んだらええと思っているクチなんです!」

 

突然大股で宗崎に近づいていった教頭は、グルリン、グルリン、と2周半回転させ後方で止めた右拳を、大声を上げながら宗崎の左目の下、出張った頬骨にヤケ気味に叩きつけた。

 

ずっと恐縮しきって縮こまっていただけの宗崎は防御に出れず、パイプ椅子ごと後方のスクリーンの下に倒れ込んだ。そして倒れたまま首だけ少し上げ、苦しそうに左顔面をひしゃげさせているせいでわずかにしか開いていない右目で肩を上下させている教頭を見上げたのだが、その構図がなんとも悲惨、さながらVシネの「やくざにごみ捨て場で殴られたシーン」が現前したかのような迫力満点の惨めさが宗崎の全身に漂った。さすがに親子も目を丸くしたまま動かなくなった。

 

(次回へつづく)