寝る部

常識にとらわれない新しい〝快眠〟を日々探求しているブログ

連載ブログ小説『せんぱいせんぱいせんぱい乾杯、せんぱいサンライズ』第11回

京都の女子高に勤めるでぶ教師の再生の物語。

ミステリーに興味がある方は是非読んでくださいね。

 

■第11回

 

 翻って私である。私は別に上層部ではないし、正味の話、学校が訴えられよう訴えられまいとさほど関係ないし、この日の視聴覚室の狂乱の態を所詮他人事として眺め、7名が喜んでいる姿を見ている時も腕を組んで「成程理事長は、組織愛より、個人的な恨みや恐怖のパワーの方がよっぽど強いことを知ってらしたんですねえ」などとうなずいていたわけであるが、しかしこの事件をきっかけに自分の立場が大いに危ぶまれていくわけで、それは少し脳天気だったみたい。
 というのも、宗崎が私と同じ数学教師だったという理由で、彼の担当していたクラスの代行授業を一挙にオシツケられて授業時間が週8コマも増えたばかりではなく、数学研究部の顧問まで引き継がされた挙句に、さらにはやつが参加していた他校のいじめっ子をマンツーマンで指導していく『京いじめプログラム』なるいかにも面倒そうな仕事までオシツケられたからだ。結果、私は仕事量倍化いう恐怖の事態に陥るのである。
 だいたいそうでなくても私は今年度に入ってから仕事量が激増していた。原因は皮膚が病気で黒ずんでいることを生徒にいつも馬鹿にされていた松井という倫理の教師が辞めたことである。まさか教師も一緒に彼を馬鹿にはしていないものの「面倒な仕事はこいつにオシツケればいい」という雰囲気になっていて、そのブラック構造にうまく乗っかった私も結構楽をしていたが、その無理な仕事量のせいか去年、我が校の松井が担当している倫理が平均点10点を下回ったことが判明、いくらマイナー科目であろうと「成果を出せない者はよろしく去れ」の方針は適用され首、まあそこまではよいとして、どうも次の彼のポジションを期待されているのは雰囲気私らしく、新年度がはじまると一挙に修学旅行関係の集金立案やホテル予約やタクシーの手配などの仕事、学年広報作成、学校のホームページ作成、毎度の定期テスト作成、来年度の数学入試作成と言った仕事を全部一人で担当させられ、残業を増やしても増やしても仕事が追いつかないこと手塚治虫、なのに手塚治虫みたいにアシスタントはおらず、手塚治虫みたいに人から賞賛されないどころか「仕事が遅い」「できないでぶ」なるレッテルが貼られているだけ。
 高度な授業により生徒にかなり高い平均点を叩きださせてきた成果によってどうにかこの厳し過ぎる環境の中で5年生き続けてきた私もいよいよ限界が近付いているらしく、授業の予習はままならなくなってにわかに完璧な授業が行えなくなってきていたし、独身だから服や何かに気を回す時間さえなくなって生徒の評判もどんどん低下していることがまるで触れるくらいしっかり実感できる。勿論そうしたストレスが肉体症状にまで被害を及ぼしていることは言うに及ばず、4月からいつも睡眠不足と下痢と頭痛に悩まされているばかりか、特に右ケツの外側にかなり大きな腫れ物ができた。「3つ目のケツ」と一人で呼んでいるうちにそれはどんどん巨大化し、最後は椅子に座れないほど痛くなり、皮膚科で軽い手術、という結びを迎えたのである。
 しかしそれさえ、まだ化膿と原因がはっきりしている分笑って済ませられたわけだけれども挙句に原因不明の幻覚が見えはじめてしまっているとなると、さすがに大笑いはできない。
 それが宗崎退職会議でもいた、例の学生服の男なのである。

 

(つづく)

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