寝る部

常識にとらわれない新しい〝快眠〟を日々探求しているブログ

連載ブログ小説『せんぱいせんぱいせんぱい乾杯、せんぱいサンライズ』第15回

京都の女子高に勤めるでぶ教師の再生の物語。 ミステリーに興味がある方は是非読んでくださいね。

■第15回

 

 エントリーナンバー1番、橋元らら。
 そのあどけない表情、いつも真剣に私の授業を聞く素直そうな性格、140センチの小柄な体を椅子に腰掛けている、行儀も育ちも良さそうな姿勢はかわいさ2倍角3倍角、なのに、少女のような純真でクリクリで大きな瞳はわずかに内に寄っていて頼りなさげなのであるが、その非対称性まで含めてドンピシャなのである。生来から30年追い求めていた理想の顕現なのである。すなわちいくら顔立ちが良かろうと見るからに生意気でガバガバな味岡志保ごときに比べれば10の12乗倍(すなわち1億倍)良く、実際彼女を入学式で見た瞬間『教師から見た、是非一緒に入浴したい女生徒』の、それまで不動の1位を守り続けてきた生徒をあっさり差し、トップ入れ替えという快挙を果たしてしまったのがまさに彼女、渡る危ない橋元ららである。
 が、あくまで生徒達の中で、に限っている点をよくよく注意したい。私はやはり15、6のガキに興味ないし、それに教師と言う立場を度忘れして欲に走るあの宗崎みたいな外道なことは想像したこともなく、だから結局橋元ららがいたからといってこのクラスを受け持てることなんて私にとってやはり嬉しくもなんともないのであるが、その後なんか勝手にお節介を焼き、私が橋元ららにアプローチする方法を思案しはじめていたKOUHAIが、そろそろ生徒達が全員問題を解ききったかなという頃合に指を鳴らした。
《そうだ!〝コサイン君〟〝サイン君〟もいいけど、放課後に生徒が教師に自由に質問に来れるシステムを作ったらどうっすか!?「質問コーナー」と称すんです!そしたらせんぱいが大好きな橋元ららが個人的にレッスンしに来るんじゃないですか!それで二人の距離が縮まる!名案でしょ、数学マスター!》
 私はこの幽霊の糞提案に「ばか。」と口に出しそうになったのを危うく抑えたほど、そもそもこの学校は質問対応専門の院生バイトを雇っているし、賞与に一切反映しないそんな仕事をする教師は皆無で寧ろ授業中以外は声をかけにくい空気を出すことにできるだけ努めるのが賢き仕事術なのである。だからそういう特殊事情も知らぬKOUHAIに当然黙殺を押し通した私は「はい、黒板見なさーい」と手を叩きさて問題の答え合わせをはじめようとしたのである。


 ところが、その瞬間である。
 KOUHAIは、突如、幽霊に言うのも何だが、死人みたいなというか、生気の抜け切ったというか、途轍もなくつまらなそうな顔を私に見せつけて、とぼとぼと力ない足取りで教室から立ち去ってしまったのである。KOUHAIは一重瞼である。どちらかというと腫れぼったいというか、目の上の膨らみが普通より大きいのである。よって笑顔が消えると途端にムスッとした人生の終わりみたいになるその表情は、私に「……俺、そこまで面白くないやつですか?」と猛烈に淋しい気持ちを抱かせたのではあるものの、とは言っても、私は授業終えるとつい「中間テストまであと一週間や!」と無意識に生徒たちに元気に言ってしまっていたのには、我ながら驚きを深くせざるを得ないのである。
「ここの分野は、2年でも3年でも関わりを持ってくるから、よう勉強しておかなあかんで。そこでこのクラスだけに特別「質問コーナー」を設けよう思う。最低でも私は6時まで職員室におるし、どんなささいな質問でもええから、直接俺に聞きに来(き)」
《あれ、結局やるんすか?!》とKOUHAIが嬉しそうな顔で戻ってきたのである。《ははは――っ!!また残業増えちゃうけど、これで橋元ららと楽しい放課後を過ごせますよぉぉおお――っ!!》
 そんなスケベ心で質問コーナーを設けたわけでないことはこれで橋元ららも味岡志保も来る保証がないことから歴然、理由はあくまでKOUHAIを少しだけ喜ばせてやりたいというサービス精神からなのだ。

(つづく)

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